瓦の都市景観

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双軸の舎

瓦屋根の表情によって表現された、空間が内包する「個性とその融合。」(平成12年度「第11回 甍賞」金賞(国土交通大臣賞)受賞)

黒潮にあらわれる土佐湾に面し、周辺には景勝地や海水浴場をもつ高知県香美郡夜須町に「双軸の舎」はあります。旧幹線道路に沿った敷地は道路に沿って細長く伸びた形状。大正4年創業という歴史ある酒屋を営む施主からの依頼は、築50年という店舗をかねた母屋の改修と、独立した生活空間としての離れの新築でした。過去と現在、公と私、住居と店舗という、相対する軸がさまざまに交錯する空間として「双軸の舎」は設計されたのです。

「双軸の舎」の特長は、まず母屋と離れが長さ約15mの渡り廊下によって連結されたことです。敷地形状に沿って設けられた渡り廊下は、あえて母屋に対して斜めに進入するよう配置。このために独特のパースが生みだされ、相互の結節点にあたる昔ながらの井戸がある生活空間を、新と旧、内と外といった要素の融合する空間として再生しています。また、洗面所や浴室という生活設備も渡り廊下に設けられており、人の動きそのものをこの一画に集約。母屋と離れという、たがいに分離しがちな建物の境界線を消失させる役割も負っています。

さらに、母屋、渡り廊下、離れというそれぞれの施設の屋根が各々ことなる個性を主張している点も「双軸の舎」の構造を端的に象徴しています。母屋の瓦屋根はあえて葺き変えることなく、古くからの甍屋根をそのまま保存。対照的に、離れと渡り廊下の屋根は、カラーステンレスの特殊鋼板に山本氏が考案した聖瓦の丸瓦だけを葺くという、異素材の組み合せが採用されました。一見すると瓦葺きのような印象を抱かせつつ、ステンレス材のもつ光沢や薄さがモダンで軽快な表情を演出。周辺の甍屋根と調和しつつも、新たな活気を景観にもたらしています。また、離れはゆるやかな曲面をもつ傾斜屋根、渡り廊下はシンプルなフラット屋根という変化をつけることで、伝統的な瓦屋根の母屋とあわせて三者三様のフォルムが、あたかも時間の流れを封じ込めたかのような独特の連続性を実現しています。
伝統的な本葺き瓦の世界に“現代的”という新たな価値を生み出した<聖瓦>によって、昨年の甍賞金賞を獲得した山本氏。今回の「双軸の舎」では、瓦と異素材との組合せによって自ら<聖瓦>の新しい可能性を開拓しました。

瓦という存在を硬直した伝統素材として扱うことをせず、つねに斬新な手法を提示する姿勢は、各方面からも高い評価を獲得。前年の「東山邸」に続いて、この「双軸の舎」も2001年甍賞金賞を見事に受賞。2回連続受賞という快挙を成し遂げました。

  • 前面から、母屋、渡り廊下、離れと三者三様の表情で連結された甍屋根。
  • カラーステンレスと組み合わせられた<聖瓦>の丸瓦部分。
  • ゆるやかな曲面を描きつつ傾斜する離れの屋根。
  • 離れと母屋をつなぐ渡り廊下。

第11回甍賞では「双軸の舎」をはじめ、ノミズ製品の使用された物件が数多く入賞しました。
●第1部住宅部門金賞:双軸の舎<聖建築研究所/山本恭弘氏>
●銀賞:さぬきの家<出江建築事務所/出江寛氏>
●特別賞:横浜市立金沢自然公園アートウォール<木村謙一氏>
●佳作:淡路夢舞台国際会議場<安藤忠雄建築研究所/安藤忠雄氏>、土と陶の工房 美乃里<無有建築工房/竹原義二氏>
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