よく「雨露をしのぐ」といわれるように、屋根材の最も重要な働きは"防水機能"だと言えます。伝統的な瓦の形状は波型ですが、これは、一枚一枚の谷部に雨水を集めて水量を多くすることで、軒先の方へできるだけ早く流すために考えられた形です。まさに機能美であり、今日まで屋根瓦が伝えられ続けてきた最大の理由の一つと言えるでしょう。つぎに、断熱材としての機能も瓦は有しています。波形の屋根材では、暖まった空気が、空洞になった山部の内側を棟の方へ上昇していきます。これにより、真夏の直射熱を屋内に直接伝えることを防いでくれるわけです。同様の原理で通気性も良くなるため、結露現象を防ぐこともできます。当然、断熱に関しては素材自身がもつ熱伝導率も、大いに関係してきます。さらに、忘れられがちなのが"景観美"を形成するという、瓦ならではの機能です。
建築物は何十年にもわたって街並みを構成し、屋根は建築物の印象をかなり左右します。このため、少なくとも建物の耐久年数よりも極端に耐久年数の短い屋根材では、後々、景観美を損ねる原因となってしまいます。また、経年変化により極端に色あせたり、汚くなってしまうような素材も問題です。新築時の美しさはもちろん、年を経るごとに古美ていく瓦は、街並みと長期間に渡って調和のとれる屋根材です。ぜひとも、日本の美しい景観を構成する一員として相応しい屋根材を選んでください。
●瓦の通気性と断熱性に関する詳細情報は →「瓦の知識文庫 環境編1」へ
イニシャルコストとメンテナンスコストのどちらを問題視するかです。イニシャルコストの安い屋根材を採用した場合は、後々でメンテナンスコストがかさみがちです。また、断熱性を考えた場合、真夏の日中の屋根裏の温度が粘土瓦の屋根の場合、他の屋根材と比べ10度以上低いというデータがあります。つまり冷暖房費がかなり節約できるわけです。家とは何10年という単位で暮らす空間ですから、長期的な経済効果を考えるならば一概に「粘土瓦は高い」とは言えないでしょう。また、粘土瓦のメリットは、経済性ばかりでなく、環境問題の側面からも見直されています。前述の冷暖房節約は、とうぜん省エネルギーにつながります。素材そのものも、コンクリート製品のように発ガン性のあるアスペストを心配する必要がありません。
粘土瓦は、朽ちても自然な土に戻るだけなのです。現在、都市環境創造の分野において"人工地盤"という、生活空間の上にもう一度地盤を造って緑化しようというユニークな発想が提唱されています。しかし、 100年くらい経た瓦屋根は、苔や雑草が生えるなど、自然に屋根の上にもう一度地面ができるようなものだとおっしゃる建築家の先生がいらっしゃいます。つまり、粘土瓦による屋根は、もう1000年以上前から人工地盤の発想を先取しているのです。