interview

 

イマジネーションを決定する場の力

私が設計するうえで、もっとも重視しているのは“場の力”というか、現場から直接感じるイマジネーションですね。かつて建築の素材は、周辺の気候風土、つまり自然環境に適したものが選ばれ、長い年月をかけて取捨選択されてきた。場が、周辺の建築の個性を決定してきたわけです。しかし流通事情の整った現在は、さまざまな素材を自由に使用することができる。だからこそ、もう一度、場の力を再確認することが必要なんだと思います。現場に立った瞬間に受けるさまざまな印象。気候であったり、景観であったり、人々の住まい方であったり。こうした要素を踏まえたうえで、その場所にふさわしい建築を考えるべきだと。
さらに、建築を長く愛される、受け入れられる存在にするためには、実際にそこで生活する施主さんの理解、いわば“住み暮らす力”というものも必要になります。「双軸の舎」の渡り廊下を例にとるならば、使用するたびに外気に触れなければなりません。雨が降れば、とうぜん雨に濡れてしまうわけです。それを、ありのままの自然に触れる「風情」と解釈してもらえるかどうか。今回の施主さんは、すべてを理解し、快く受け入れてくれたためじつに幸運な仕事をすることができました。建築というのは、自然環境、設計者、利用者、三者のコラボレーションによって成立する作業だとつくづく思います。

都市景観の発展を、線から面へ



二方向に開口させることで公共性をもたせたエントランス。

建築、とくに住宅というのは都市景観のなかにおける最小単位です。今後あるべき住宅の姿として、私はひとつに“通り抜けられる家”というのを追求したいと考えています。いつのまにか家は外部から閉鎖された環境になってしまいましたが、もっと地域に対して開かれた存在であってもいい。現在の都市開発とは道路開発であって、道路によって区画された“線”でしか都市が発達していかない。そうではなく、家と家の境界線に通り抜けられる隙間を設けることにより“面”として発達していく都市があってもいいのではないか。安全性や快適性を追求するために内と外を完全に分離するのではなく、家の一部に公共性をもたせたいのです。

こうした想いから「双軸の舎」の母屋でも、喫茶店の厨房がそのまま家族の台所になっているような構造を採用しました。私がいま暮らしている自宅にしても、登録文化財となっているほど古い民家ですが、玄関から一直線に抜けた裏庭を、地域の人々が創作した作品を自由に発表できるギャラリーとして開放しようと計画しています。家のなかにこうした内と外の二面性を内在させることで、そこから新しいコミュニティが育っていってほしい。それが、いま私の思い描く都市環境であり、都市景観なのです。

profile

山本恭弘(建築家)聖建築研究所

聖建築研究所代表。
高知県土佐山田町を拠点に、地域の風土と文化に根ざした建築設計活動をおこなう。
自ら開発した「聖瓦」では、形状そのものを含めた新たな施工システムを考案。
平成11年「第10回甍賞」、平成13年「第11回甍賞」金賞連続受賞。

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