瓦の都市景観

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五色町立図書館・鮎原地区公民館

壮麗な曲面を描きだす甍屋根。低く抑えられた軒に映える、「本葺瓦の美しい陰影。」(平成12年度「第11回 甍賞」金賞(国土交通大臣賞)受賞)

江戸時代に蝦夷地との海運業を開拓し、択捉島や根室などに多数の漁場を経営して北洋漁業の先駆となった高田屋嘉兵衛。当時、南下政策を進めるロシアの虜囚となったことを契機に、民間人ながら日露関係の修復・改善に奔走した彼は、鎖国時代の日本にあって希有な国際人でした。高田屋嘉兵衛の生涯を描いた司馬遼太郎の小説『菜の花の沖』の中に「利という海で泳ぎながら自分自身の利については鈍い人間でなければならない」と商人の心得を説く台詞がありますが、彼の高潔な人格が国境を越えて多くの信頼を築き上げたのです。

淡路島西岸のほぼ中央に位置する五色町は、高田屋嘉兵衛生誕の地としても知られる漁業の街。この五色町に「五色町立図書館・鮎原地区公民館」が2002年 3月竣工し、7月にオープンされました。軒を低く抑えた優美な姿の建物は、瓦の産地として有名な淡路島にふさわしく屋根に本葺瓦を採用。ただし、オーソドックスな切妻や寄棟ではなく、円形・曲面が特徴的な瓦屋根デザインが提案され、これを実現するために独自の施工法が利用されました。

そもそも、この大胆な曲面を特徴とする瓦屋根は、五色町という町名の由来となった、美しい“五色石”の丸みを表現するためのアイデア。さらには、周囲に広がる田園風景との調和をめざし、もともと“棚田”であった地形を活かしたフォルムとなっています

本葺瓦SS工法により伝統的な
美観と共に、公共施設に
求められる機能性を実現した
円形屋根。
(撮影:花城辰男)

鉄筋コンクリート造に一部木造を加えた平屋建ての建物では、外装・外溝に五色石を、図書館内に木肌をといった具合に、多くの自然素材を瓦とともに活用。高田屋嘉兵衛が愛した淡路の自然の魅力、人工素材では得られない力強さを引き出すとともに、やすらぎや、いやしの感覚も盛り込まれています。

大胆な瓦屋根の実現にあたって採用された施工法とは、まず基本となる瓦納めの手法。円形屋根に納める場合、軒部から棟部に向かって利き幅を狭めながら瓦を葺いていくわけですが、これほど大規模な屋根になると調節は相当に複雑化します。平瓦の接合部を丸瓦で覆う形になる本葺瓦ゆえに多少は容易であるとはいえ、それでも瓦納めは困難な作業です。
そこで、今回はCADを駆使して、事前に細部までシミュレート。利き幅の異なる瓦を数種類用意して、2段納めとする方法が採用されています。

また、現場での瓦切断を省力化するため、瓦をプレス成形した後にゲージでカット筋を入れておき、焼成後のカットを容易にするという製造段階での工夫も盛り込まれました。
さらに、本葺瓦の施工においても、画期的な「本葺瓦SS工法」を利用。これは、旧来の南蛮漆喰を用いず、取付芯材に瓦を嵌合(かんごう)して固定するというアイデアから生まれた工法です。これにより、大幅な工期短縮を実現するとともに、屋根の軽量化、通気性の確保、耐震・耐風性能の向上などを実現。伝統的な本葺瓦の美観を損なうことなく、現代建築、特に寺社や公共建築物などの安全性を重視する大型物件において要求されるさまざまな機能を備えることが可能なわけです。周辺環境との調和をめざしつつ、まさに画期的な美観と機能を実現した「五色町立図書館・鮎原地区公民館」。その洗練された佇まいは、地域の新たなコミュニティスペースとして多くの人々から愛されています。

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